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福岡高等裁判所 昭和45年(う)64号 判決 1970年9月01日

本店

北九州市若松区藤木五五四番地の二

事務所

同 市同区宮丸町四〇番地

テラダ産業株式会社

右代表者代表取締役

寺田金司

本籍

北九州市若松区宮丸町四〇番地

住居

右同所

右会社代表取締役

寺田金司

明治四三年三月二三日生

被告事件名

法人税法違反

原判決

昭和四四年一二月二六日福岡地方裁判所言渡有罪

控訴申立人

被告人

出席検察官

検事 柴田和徹

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人佐山武夫、同森田莞一(連名)提出の控訴趣意書記載のとおりで、これに対する答弁は、検察官柴田和徹提出の意見書記載のとおりであつて当裁判所の判断はつぎに示すとおりである。

同控訴趣意第一点(事実誤認)について。

所論は要するに(一)、期末棚卸商品の一部を正規経理から除外したのは、被告人らが故意に行つたのではなく、会社係員の期末整理の不完全に基づく会計事務上の過失によつて、棚卸もれを生じたものであるから犯則所得と認定されるべきではない。更に(二)、昭和四二年九月末の決算期において、被告会社の売掛と得意先の未払の各残高の不突合は、約六、七千万円(控訴趣意書の約六、七〇〇万円は誤記と認める。)に及び、このことは被告会社が売上を過大に計上したもので、そのうちには本件各事業年度(昭和三六、七年度)に発生したものも相当額存在することが推定され結局告発所得額に影響するものである。原判決には右のような事実の誤認があり、この誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、破棄を免れないというにある。

よつて記録を精査して検討するに

(一)  被告会社は昭和三三年四月一日設立され、被告人寺田金司が代表取締役となり現在に及んでいるものであるが、昭和三五年春ころ、国税当局から簿外資金を見付けられ、六〇〇万円の追加納入したこともあり、被告人は鉄鋼業界の不況に対処し、かつ右追加納税による支出を回復するため、運転資金を確保しようと企て、八幡製鉄所の島添に渡すリベートを水増しして、その差額を裏資金として簿外預金とする等し、ことごとに被告会社の利益金を隠匿して課税対象から除外することを意欲したもので、かねがね法人税逋脱の意図を有していたものである。

そうして、被告会社においては、決算期(九月三〇日)の二ヶ月以内(一一月三〇日迄)に法人税確定申告書を作成して所轄若松税務署に提出して納税するのであるが、まず経理課長安倍貞夫が仮決算書を作成し、これを取締役管理部長村屋助次郎へ提出し、次いで被告人寺田に報告し、被告人がこれを査閲して当該事業年度の利益額をどれぐらいにするかについて、前期の利益額とにらみ合せて「このくらいにしておけ」と指示し、これに基づいて安倍課長が帳簿上の操作をしたうえ、情を知らない税理士田原新一郎に法人税確定申告書を依頼し、作成された右申告書の経理責任者欄に村屋部長が署名押印し、被告人寺田が報告を受けて承認を与えた後、代表者として自署押印(署名を村屋がしたこともある)していたものであることが認められる。

してみれば、被告会社において、未検収商品を期末棚卸しをせず正規経理から除外して決算したことは、被告会人寺田の法人税逋脱の意図による一連の行為の一環として右のように実際の利益を相当減らして決算する様にとの指示に基づき、管理課長安倍が故意に執つた措置であつて、このことは同人から村屋部長や被告人にも各事業年度毎に報告され、被告人もこれを了承していたものである。更に未検収品のなかには相当高額なものが多数あつて、単なる事務上の過ちとは到底認められず、所論は採用できない。

(二)  次に昭和四二年九月末の決算期において、被告会社の架空売上が約六、七千万円あり、そのうちには本件各事業年度内に発生したものも相当含まれているとの点については、原審第一六回、第二二回公判廷における証人福島安成の供述によれば、本件査察後、昭和四一、二年ころにいたり、被告会社からの申出により総勘定元帳、売上帳、相手先の証明書等により照合したところ、被告会社には昭和三五年一〇月一日から昭和三六年九月三〇日までの間に兼松株式会社に対して一八三万八〇〇〇円昭和三六年一〇月一日から昭和三七年九月三〇日までの間に三菱電機株式会社に対して二七万二一〇円、富士製鉄株式会社に対して一〇九万三一〇〇円が過大売上になつていること、更にその後の調査により昭和四二年九月末の決算期においては、過大売上が約二八〇〇万円、買掛金の過大が約八〇〇万円、差引き約二〇〇〇万円が不突合であることが一応窺える。

しかしながら、右過大売上とみられる不突合はいずれも東京支店におけるもので、しかも昭和四二年二月九日ころの決算期においてはじめて発見されたものであつて、本店が支店の架空の売上げ計上を看過すことは極めて稀なことであり、数年間にわたり売上高を回収せず放置することも通常考えられず、右各事業年度に若し支店で売上げの過大計上がなされれば、本店としても当然それに気がつく筈である。してみれば、右約二〇〇〇万円の不突合は、過大売上の記帳のためではなく、東京支店の従業員の使い込みによるものとも考えられるし、仮に昭和四二年九月末現在で、右過大売上が存在するものとしても、本件昭和三六、七年の事業年度内に発生したものであることを明確にする証拠はなく、本件査察後に生じたものと認めざるを得ない。結局本各事業年度においては、前記兼松株式会社等に対する過大売上が認められるにすぎない。前記主張に副う原審第一三回公判廷における証人安倍貞夫、第一八回公判廷における被告人の供述は、他にこれを具体的に裏付けるものもなく措信できず所論は採用できない。

次に前記証人福島安成の供述により認められる昭和三六年事業年度の兼松株式会社に対する一八三万八〇〇〇円、昭和三七年事業年度の三菱電機株式会社、富士製鉄会社に対する合計一三六万三三一〇円の過大売上については、被告会社の整理誤りで脱漏したという理由により告発していない所得額が、昭和三六年事業年度には五二三万二三七〇円、昭和三七年事業年度においては、五三六万二七五九円存在し、右売上げ過大はいずれも右不告発所得額から差引くので告発した所得額には影響を及ぼすものでないことが認められるとの原判決の認定はにわかに是認し難い。すなわち未告発所得額については、被告会社に漏脱の犯意の認められないことによる犯則所得になりえないものもあつて、右所得額と過大売上額とを彼此勘案して告発所得額に影響がないとすることは相当でない。しかし、本件において前記兼松株式会社等に対する過大売上は、告発された各事業年度の犯則所得額に比して極めて僅少であるから、この点につき原判決に事実の誤認があるとしても、その誤認は判決に影響を及ぼさないものというべきである。

してみれば、原判決には所論指摘のような判決に影響を及ぼすような事実の誤認はなく、論旨は理由がない。

同控訴趣意第二点(量刑不当)について。

しかし、記録を精査して被告会社および被告人の犯罪の情状を検討するに、被告人は被告会社が成立されて以来、簿外預金をする等して利益を隠匿し、法人税逋脱の意図があつたものと認められ、本件犯行の手口は巧妙で悪質であること、昭和三六、七年当時において、逋脱額が五千万円に近い多額であること等にかんがみるときは、本件犯行後、被告会社において、本件逋脱額全額を納入したという有利な事情を十分に参酌しても、原判決の被告会社および被告人に対する刑の量定は相当であつて、これを不当とする理由をみつけることができない。論旨は理由がない。

そこで、刑事訴訟法第三九六条に則り本件各控訴を棄却して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村荘十郎 裁判官 高井清次 松澤博夫)

控訴趣意書

被告人 テラダ産業株式会社 外一名

右の者に対する法人税法違反被告事件の控訴の趣意は次のとおりである。

昭和四五年四月一七日

弁護人 佐山武夫

同 森田莞一

福岡高等裁判所

刑事第三部 御中

第一点、原判決は明らかに判決に影響を及ぼす事実の誤認がある。

(一) 期末棚卸商品の一部を正規経路から故意に除外したとして、昭和三五年一〇月一日から同三六年九月三〇日に至る事業年度分について一一、六四二、八三八円を、同三六年一〇月一日より同三七年九月三〇日に至る事業年度分について一五、〇四三、四三五円をそれぞる犯則所得と認定しているが、右除外は被告人らが故意に行つたものではなく、全く会計事務上の過失に因るものであつて犯則所得ではない。

即ち、棚卸除外は総て八幡製鉄所に対する納品に関するもので、被告会社の経理方法は納品が八幡製鉄所側で検収された日を以て売上する方法を採用しているのであるが、(記録二、二八七丁、一六四六丁)納品の種類が多く且つ単価の低い種々雑多な品目に亘るところから、(記録一、六四四丁)右検収に要する日数は短かければ数日、長ければ六ヶ月を要するという工合に予期することのできない状態である。従つて期末決算時に於て被告会社の少人数の係員で(記録一、六一三丁、一、六一四丁)完全に検収の有無を確定することは事実上全く不可能である。(記録二、二五〇丁、二、七四五丁)

よつて被告会社係員の期末整理の不完全さから生じたのが本件棚卸もれであり、(中には一日か二日のズレに因るものも相当額含まれている。―福島安成作成証拠説明書棚卸除外一覧表参照)故意に除外したものではなく犯則所得と認定されるべきものではない。

(二) 原判決は、被告会社に隠れた売上過大計上の存在を認めたが、不告発所得として昭和三五年一〇月一日から同三六年九月三〇日までの事業年度に五、二三二、三七〇円、同三六年一〇月一日から同三七年九月三〇日までの事業年度について五、三六二、七五九円があるので、右売上過大は右不告発所得額から差引くので告発所得額には影響しないという認定となつたが証人安倍貞夫の証言の如く(記録二、一四一より二、一四五丁、三、六三七丁)昭和四二年九月末決算時に於ける被告会社と得意先の残高帳尻の不突合は、約六、七〇〇万円に及び、そのうちに、本件事業年度に発生した売上過大に因るものも相当額存在することが推定される。

勿論被告人としては、右売上過大の真相を明らかにすべく努力したものであるが、(記録二、一一九丁)得意先に調査協力を強く求めることの不可能な状況等より、(記録二、六三四丁、二、六三六丁、二、七四八丁、二、七四九丁、二、七五六丁)事業年度別得意先別及び個別商品別の売上過大計上の立証が完全には出来なかつたが、少くとも右不告発所得では賄い切れない隠れた売上過大計上があり、それは告発所得額に影響するものがあると信ずる。

第二点、原判決の刑の量定が不当である。

(一) 棚卸商品の期末一部除外については、被告人らの故意に基くものではないと主張するのであるが、たとえ棚卸もれのあることを予想しながら被告人らが故意に看過して除外したものと仮定しても、それらは就れも翌事業年度開始後数日中に売上に計上されているものであり、(記録二、二五一丁)課税上左程弊害があるものではなく犯則度の低い脱税であると云うことができる。(記録二、二八七丁、二、二八八丁)

(二) 隠れた売上過大計上については、前述のとおり被告人として確実には立証していないのであるが、少くとも告発所得は影響するものがあると推定させるに十分であり、且、得意先の総ての調査は行われていない処から告発所得も完全に正確なものであるとは云いえない処があると信ずる。

(三) 本件告発所得及び前記不告発所得を含めて被告会社は福岡国税局長より所得金額及び税額の更正処分を受けたのであるが、その本税及び加算税合計七、九〇〇万円を昭和四五年三月末に完納ずみである。

然し乍ら、右に加えて更に、原判決の罰金合計一、三五〇万円を支払わねばならないこととなれば、罰金は納付支出しても税法上損金とは認められないので、被告会社の負担は誠に過大となり、倒産の危険も考えられるところである。そうすると約九〇名の従業員とその家族の生活が危くなることとなる。

(四) 被告人寺田金司の個人事業の艀が本件脱税の一環となつているが、此の個人事業は廃止されたので、今後右不正経理の行われる原因は一掃された。

(五) 法人税法一五九条二項により情状悪質の場合五〇〇万円を超えて罰金を科することが出来ることとなつているが、本件は以上述べた如く左程悪質なものではないので合計一、三五〇万円の原判決の罰金刑は不当である。

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